事件番号:JP2021-0005 裁 定 申立人: (名称)株式会社北電子 (住所)東京都豊島区西池袋一丁目7番7号 代理人:弁理士 古関 宏 登録者: (名称)kitac-deadman.jp、kitac-penguindrum.jp、kitac-tos.jpことラッコ株式会 社 (住所)東京都渋谷区道玄坂1-19-12 道玄坂今井ビル4F 代理人:なし 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン 名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理 方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理 を遂げた結果、以下のとおり裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「KITAC-DEADMAN.JP」「KITAC-PENGUINDRUM.JP」及び「KITAC-TOS.JP」の各 登録を申立人に移転せよ。 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「KITAC-DEADMAN.JP」「KITAC-PENGUINDRUM.JP」及び「KITAC- TOS.JP」である。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の主張 a 申立人の主張の要旨 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と同 一又は混同を引き起こすほど類似していること ア 申立人の登録商標等 申立人は、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」の適用を受ける 第4号営業店に設置される「回胴式遊技機」(略して「パチスロ」)を取り扱っており、 申立人の通称は「KITAC」(キタック)である。 申立人は、主として、遊技機及びホール周辺機器等の開発を担当し、株式会社キタ ック販売はそれらの販売を担当している。申立人及び株式会社キタック販売(以下、 併せて「申立人ら」という。)の開発・製造・販売に係るパチスロ機等に「KITAC(ロ ゴ)」を付すことがある。 申立人は、登録第4328511号商標、同第4342904号商標、同第4402006号商標、同 第4434885号商標、同第4440029号商標、同第4514693号商標、同第4514694号商標、 及び、同第5019157号商標等、「キタック販売」若しくは「KITAC(ロゴ)」からなる登 録商標または「KITAC」若しくは「キタック」を含む登録商標に係る商標権を複数所有 している。 申立人は、以下のタイアップ契約を締結し、「KITAC-DEADMAN.JP」(以下、「本件ドメ イン名1」という。)「KITAC-PENGUINDRUM.JP」(以下、「本件ドメイン名2」という。) 及び「KITAC-TOS.JP」(以下、「本件ドメイン名3」という。)(以下、本件ドメイン名 1乃至3を総称して「本件ドメイン名」という。)をそれぞれ使用していた。 ① 本件ドメイン名1について 申立人は、2011年、株式会社角川プロダクション(現株式会社KADOKAWA)及びイン テル株式会社(現インテルエンタテインメント株式会社)との間で、片岡人生及び近 藤一馬の両氏による漫画作品「デッドマン・ワンダーランド(DEADMAN WONDERLAND)」 を原作とし、2011年4月から同年7月にかけて独立UHF局で放送されたテレビアニメ について、タイアップする商品化権使用許諾契約を締結し、そのタイトルやキャラク ターを利用したパチスロ機を2015年10月に導入した(以下、「本件パチスロ機1」と いう。)。 申立人は、本件パチスロ機1の導入に先立ち、2015年7月31日、本件ドメイン名 1を登録して、本件パチスロ機1に関する特設サイトを開設し、その広告宣伝に供し ていたが、契約満了により、2018年8月1日、本件ドメイン名1の登録を廃止した。 ② 本件ドメイン名2について 申立人は、2012年、キングレコード株式会社及びインテル株式会社との間で、2011 年7月から12月まで毎日放送の系列で放映されたブレインズ・ベース制作のテレビ アニメ作品「輪るピングドラム」(略称:ピングドラム他)について、著作物「輪るピ ングドラム」に関する商品化権使用許諾契約を締結し、その作品名及びそのキャラク ターを利用したパチスロ機を2017年3月に導入した(以下、「本件パチスロ機2」と いう。)。 キングレコード株式会社は、登録第5484274号商標「まわ\輪るピングドラム\ MAWARU-PENGUINDRUM」に係る商標権を所有している。 申立人は、本件パチスロ機2の導入に先立ち、2016年12月7日、本件ドメイン名 2を登録して、本件パチスロ機2に関する特設サイトを開設し、その広告宣伝に供し ていたが、契約満了により、2019年1月1日、本件ドメイン名2の登録を廃止した。 ③ 本件ドメイン名3について 申立人は、2014年、株式会社バンダイナムコゲームス(現株式会社バンダイナムコ エンターテインメント)との間で、2003年8月29日に株式会社ナムコ(現株式会社 バンダイナムコエンターテインメント)から発売されたニンテンドーゲームキューブ 用RPG(ロールプレイングゲーム)であって、2004年9月22日にPlayStation2用に 移植された「テイルズ オブ シンフォニア」(TALES OF SYMPHONIA)(略称:TOS等) について、利用許諾契約を締結し、そのゲーム名、そのゲーム名の略称、及びそのキ ャラクターを利用したパチスロ機を2017年6月に導入した(以下、「本件パチスロ機 3」という。)。 株式会社バンダイナムコエンターテインメントは、登録第4683357号商標「テイル ズオブシンフォニア\Tales of Symphonia」を所有している。 そして、申立人は、本件パチスロ機3の導入に先立ち、2017年3月27日、本件ド メイン名3を登録して、本件パチスロ機3に関する特設サイトを開設し、その広告宣 伝に供していたが、契約満了により、2020年4月1日、本件ドメイン名3の登録を廃 止した。 イ 登録者のドメイン名 本件各ドメイン名につき、それぞれレジストリデータベースから当該ドメイン名の情 報が削除されると同時に、登録者は、本件各ドメイン名を登録している。 ウ 登録者のドメイン名と申立人の登録商標等との同一・類似性 本件ドメイン名にそれぞれ含まれる「DEADMAN」「PENGUINDRUM」及び「TOS」部分は、 それぞれタイアップ契約に由来する。 他方、本件ドメイン名に共通する「KITAC」部分は、申立人の周知著名な商標と実質的 に同一であって、「KITAC」とそれ以外の部分は、「-」(ハイフン)をもって分離して表さ れ、本件ドメイン名における要部は、「KITAC」部分に存する。 よって、本件ドメイン名が登録商標に類似する。 (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと ア 本件ドメイン名の登録者の本件ドメイン名に関連する登録商標は一切見当たらない。 また、「KITAC」を含む登録商標は、申立人が所有するもの以外にはない。 イ 登録者は、申立人らと何の関係性も有さず、かつ、申立人らは、登録者に対して本件 ドメイン名に関するライセンスを一切付与していない。 (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること ア 申立人の登録商標等の周知著名性について 申立人は、前記のとおり「回胴式遊技機」(略して「パチスロ」)を取り扱っており、 申立人の通称は「KITAC」(キタック)である。 申立人が1996年にリリースしたパチスロ機「ジャグラー」は、20年を超えるロン グセラーシリーズとなっている。特にパチスロ5号機は、申立人の製造に係る「アイ ムジャグラーEX」であった。 また、「日刊遊技情報」(株式会社ビジョンサーチ社の発行)によれば、近時の登録 及び大阪の主要14店舗における「パチスロ」の申立人の設置台数は、約25%と、 継続して第1位の地位を確保している他、「パチスロ」の設置機種台数のベスト10に、 申立人の製造に係る6機種が入っている。 「KITAC」を含む登録商標は、申立人が所有するもの以外にはない。 パチスロ業界において、申立人の登録商標「KITAC」及び申立人の略称「KITAC」(キ タック)は周知著名である。 イ 登録者による本件ドメイン名の不正目的による登録または使用 ① 本件ドメイン名1について 登録者は、本件ドメイン名1の下で、「オンラインカジノ初心者ガイド」と題したウ ェブサイトを開設し、「オンラインカジノの登録方法」「オンラインカジノの入金方法」 「オンラインカジノの出金方法」を説明するとともに、「オススメのオンラインカジノ 7選」と題して、インターネット上のユーザーを、「オンラインカジノ」のオンライン ロケーションに誘引するために、本件ドメイン名1を使用している。 ② 本件ドメイン名2について 登録者は、本件ドメイン名2の下で、「ベラジョンカジノ徹底ガイド」と題したウェ ブサイトを開設している。 この「ベラジョンカジノ」は、地中海のマルタ共和国に拠点を置くオンラインカジ ノである。 したがって、本件ドメイン名2は、インターネット上のユーザーを、「オンラインカ ジノ」の一つである「ベラジョンカジノ」のオンラインロケーションに誘引するため に使用されている。 ③ 本件ドメイン名3について 登録者は、本件ドメイン名3の下で、「オンラインパチスロがあつい!これから流行 る根拠と換金の手順を徹底解説」と題したウェブサイトを開設している。 同ウェブサイトでは、「オンラインパチスロ」を「パソコンやスマホなどを通じてオ ンライン上で遊ぶことができるパチスロの総称」と称して、その中において、「実機版 オンラインカジノ」(換⾦可能、実機と同スペック機)の魅力を紹介し、最終的には、 実機と同じ仕様で名称だけ変更した機種が打てる『カチドキ』というオンラインパチ スロへと誘引している。その『カチドキ』において、申立人の製造に係るパチスロ機 である「I’m JUGGLER」及び「マイジャグラー」と同じ仕様で名称だけ変更したと称 するパチスロ機がラインナップされている。 本件ドメイン名3は、インターネット上のユーザーを、「カチドキ」のオンラインロ ケーションに誘引するために使用されている。 そして、また、パチンコ、スロットマシーン、パチスロ、ホール等を紹介する、例 えば、株式会社パチンコビレッジのウェブサイトにおいて、申立人の本件パチスロ機 1乃至3がその商品ページのURLとともに紹介されているが、それらのURLにはリン クが貼られており、それぞれ登録者の本件ドメイン名1乃至3のサイトに飛ぶように なっている。 以上のとおり、「オンラインカジノ」へと誘引するために使用されている本件各ドメ イン名は、不正の目的で登録され、使用されていることが明らかである。 (4)よって、申立人は、本件ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。 b 登録者 登録者によって答弁書は提出されなかった。 5 争点および事実認定 A 本件ドメイン名の紛争処理に適用すべき判断基準について a JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下「手続規則」という。)第15 条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパ ネルに次のように指示する。 「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果に基づき、処理方針、本規則及 び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さなければ ならない。」 JPドメイン名紛争処理方針(以下「処理方針」という。)第4条aは、申立人が次 の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。 (ⅰ)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示 と同一または混同を引き起こすほど類似していること (ⅱ)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと (ⅲ)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること b 本件において登録者は答弁書を提出していない。登録者による答弁書の提出しない 場合の扱いに関して、手続規則第5条(f)は「もし登録者が答弁書を提出しないと きには、例外的な事情がない限り、パネルは申立書に基づいて裁定を下すものとする」 と定めている。すなわち手続規則第5条(f)は、申立書に記載されたところに基づ いて例外的な事情の有無を審理して裁定することを定めている。 c そこで、処理方針第4条aに示された各事項について、以下に検討する。 B 処理方針第4条a各号についての当紛争処理パネルの判断 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示 同一または混同を引き起こすほど類似していること(処理方針第4条a(ⅰ)) ア 本件ドメイン名1「KITAC-DEADMAN.JP」は、国別コードで日本を意味するトップレ ベルドメインである「.JP」を除くと、「KITAC」と「DEADMAN」の間に「-」(ハイフン) を入れた文字構成である。 また、本件ドメイン名2「KITAC-PENGUINDRUM.JP」も、トップレベルドメインであ る「.JP」を除くと、「KITAC」と「PENGUINDRUM」の間に「-」(ハイフン)を入れた文 字構成である。 さらに本件ドメイン名3「KITAC-TOS.JP」もトップレベルドメインである「.JP」を 除くと、「KITAC」と「TOS」の間に「-」(ハイフン)を入れた文字構成である。 上記の本件ドメイン名1乃至3において、識別力を有する部分は、セカンドレベル ドメイン、「KITAC-DEADMAN」、「KITAC-PENGUINDRUM」及び「KITAC-TOS」の部分である と認められる。 ところで、本件ドメイン名1乃至3のセカンドレベルドメインは、いずれも中間に 「-」(ハイフン)がある2語から成る。そこで、類似の判断を行う前提として、本件 ドメイン名(セカンドレベルドメイン)の構成を検討する。 ① 本件ドメイン名1(セカンドレベルドメイン)について (ア)前記のとおり、本件ドメイン名1の構成は、2語を「-」(ハイフン)で結び、その 構成が全体として一体となっているが、前半の「KITAC」と後半の「DEADMAN」の各語 をそれぞれ構成部分として明瞭に区別して分離して検討できる。 (イ)前半の「KITAC」の部分について 申立人が正当な利益を有する申立人商標のうち登録第4342904号[第41類娯楽施 設の提供](甲第4号証)、同4402006号[第42類ソフトウェアの設計・作成又は保 守](甲第5号証)、同4440029号[第10類診断用機械器具](甲第7号証)、同4514694 号[第9類スロットマシーン/第28類遊戯用器具](甲第9号証)、同5019157号[第 9類スロットマシーン外/第28類遊戯用器具外](甲第11号証)と「KITAC」は、称 呼が同一である。また、申立人商標のうち、登録第4328511号[第41類娯楽施設の提 供外](甲第3号証)、同4434885号[第10類診断用機械器具](甲第6号証)、同 4514693号[第9類スロットマシーン/第28類遊戯用器具](甲第8号証)、同4899356 号[第9類スロットマシーン外/第28類遊戯用器具外](甲第10号証)、同5432936 号[第9類業務用テレビゲーム機外/第41類娯楽施設の提供外](甲第12号証)、同 5451301号[第9類業務用テレビゲーム機外/第41類娯楽施設の提供外](甲第13号 証)、同6256841号[第9類遊戯店管理用コンピュータ及びその周辺機器外/第35類 遊戯店におけるサービスの提供に関するオンラインによる経営情報の提供外](甲 第14号証)とは、称呼を共通にする部分がある。さらに、申立人の会社の通称KITAC(キ タック)と「KITAC」の部分で共通していると見受けられる(甲第2号証)。 そして、「KITAC」は、それ自体は特別の観念を持たない造語である。 (ウ)後半の「DEADMAN」の部分について 「DEADMAN」は、DEADとMANに由来し、語の意味を観念し得、死者・死人その他の 意味を有する英単語である。 しかし、「KITAC-」と組み合わせると、申立人がタイアップしていた前記漫画作品「デ ッドマン・ワンダーランド(DEADMAN WONDERLAND)」を観念することもできる(甲第15 号証)。「DEADMAN」は、前記作品に特殊能力を持つ人間として登場する。 (エ)登録者も上記の点については、答弁書を提出せず、特段の反論をしていない。 (オ)「KITAC-DEADMAN」は、全体として一体性があるとは言え、「KITAC」と「DEADMAN」の 2つの要部があると考えられる。 そして、その要部である「KITAC」が類似する以上、類似性は肯定される。 他の要部である「DEADMAN」が異なっているからといって、同部分が類似を打ち消す ものではなく、類似性を否定する理由にはならない。 もっとも、両語は、「-」(ハイフン)で分離されているとは言え、両語を結びつけて、 同一の機会に合わせ表示されているので、両語の関係性についての連想を生じること は否定できない。特に、本件では、申立人のドメイン名における両語の使用経緯につ き商品化権使用許諾契約が介在しているようであるが、この事実も処理方針第4条a (ⅰ)の要件の「混同を引き起こすほど類似している」との判断を左右する事実では ない。 (カ)以上のとおりであり、本パネルは、本件ドメイン名1については、(1)の要件は満 たされていると判断する。 ② 本件ドメイン名2について (ア)前記のとおり、本件ドメイン名2(セカンドレベルドメイン)の構成は、2語を「-」 (ハイフン)で結び、その構成が全体として一体となっているが、前半の「KITAC」と 後半の「PENGUINDRUM」の各語をそれぞれ構成部分として明瞭に区別して分離して検討 できる。 (イ)前半の「KITAC」の部分については、本件ドメイン名1に述べたのと同様である。 (ウ)後半の「PENGUINDRUM」の部分について 「PENGUINDRUM」は、それ自体では特別の観念を持たない造語である。(PENGUINと DRUMは、一語一語としては語の意味はあるものの一連のPENGUINDRUMは一般に通用し ている用語ではない)。 しかし、その語の由来は、申立人主張のテレビアニメ作品「輪るピングドラム」の 一部と推認できる(甲第20号証)。 (エ)登録者も上記の点については、答弁書を提出せず、特段の反論をしていない。 (オ)「KITAC-PENGUINDRUM」は、全体として一体性があるとは言え、「KITAC」と「PENGUI NDRUM」の2つの要部があると考えられる。 そして、その要部である「KITAC」が類似する以上、類似性は肯定される。 他の要部である「PENGUINDRUM」が異なっているからといって、同部分が類似を打ち 消すものではなく、類似性を否定する理由にはならない。また、「PENGUINDRUM」が登 録第5484274号商標「まわ\輪るピングドラム\MAWARU-PENGUINDRUM」に関係し、そ の商標の一部を含むものか否かの点も類似性を否定する理由とはならない(因みに、 WIPO Jurisprudential Overview 3.0(WIPO Overview of WIPO Panel Views on Selected UDRP Questions, Third Edition)の1.12項には、申立人の商標が紛争対 象のドメイン名の中で認識できる場合、他の第三者の商標を追加しても、それだけで は第1の要素に基づく申立人の商標との混同を引き起こすほどの類似性の認定を避け るには十分ではないとされている)。 もっとも、両語は、「-」(ハイフン)で分離されているとは言え、両語を結びつけて、 同一の機会に合わせ表示されているので、両語の関係性についての連想を生じること は否定できない。特に、本件では、申立人のドメイン名における両語の使用経緯につ き商品化権使用許諾契約が介在しているようであるが、この事実も処理方針第4条a (ⅰ)の要件の「混同を引き起こすほど類似している」との判断を左右する事実では ない。 (カ)以上のとおりであり、本パネルは、本件ドメイン名2については、(1)の要件は満 たされていると判断する。 ③ 本件ドメイン名3について (ア)前記のとおり、本件ドメイン名3(セカンドレベルドメイン)の構成は、2語を「-」 (ハイフン)で結び、その構成が全体として一体となっているが、前半の「KITAC」と 後半の「TOS」の各語をそれぞれ構成部分として明瞭に区別して分離して検討できる。 (イ)前半の「KITAC」の部分については、本件ドメイン名1に述べたのと同様である。 (ウ)後半の「TOS」の部分について 「TOS」は、それ自体では特別の観念を持たない造語である。 しかし、その語の由来は、申立人主張の前記ゲーム名「テイルズ オブ シンフォニ ア」(TALES OF SYMPHONIA)の略称と推認できる(甲第25号証)。 (エ)登録者も上記の点については、答弁書を提出せず、特段の反論をしていない。 (オ)「KITAC-TOS」は、全体として一体性があるとは言え、「KITAC」と「TOS」の2つの要 部があると考えられる。 そして、その要部である「KITAC」が類似する以上、類似性は肯定される。 他の要部である「TOS」が異なっているからといって、同部分が類似を打ち消すもの ではなく、類似性を否定する理由にはならない。 また、「TOS」が登録第4683357号商標「テイルズオブシンフォニア\Tales of Symphonia」に関係する表示か否かも上記の類似性を否定する理由とはならない。 もっとも、両語は、「-」(ハイフン)で分離されているとは言え、両語を結びつけて、 同一の機会に合わせ表示されているので、両語の関係性についての連想を生じること は否定できない。特に、本件では、申立人のドメイン名における両語の使用経緯につ き商品化権使用許諾契約が介在しているようであるが、この事実も処理方針第4条a (ⅰ)の要件の「混同を引き起こすほど類似している」との判断を左右する事実では ない。 (カ)以上のとおりであり、本パネルは、本件ドメイン名3については、(1)の要件は満 たされていると判断する。 イ さらに、本件ドメイン名1乃至3は、いずれも「KITAC」を共通にし、そのラインア ップの下での「-」(ハイフン)以下の語の異なるドメイン名と考えられ、共通する 「KITAC」の要部の類似によって、混同を惹き起こすほど類似していることは明らかで ある。 (2)登録者が当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと(処 理方針第4条a(ⅱ)) 登録者は法人であり、その名称は、本件各ドメイン名の要部である「KITAC」の文字 列とも「DEADMAN」、「PENGUINDRUM」、「TOS」の文字列とも関係がない。また、登録者は、 申立人らと何の関係性も有さず、かつ、申立人らは、登録者に対して本件ドメイン名 に関するライセンスを一切付与していないと申立人は主張しているが、その趣旨は、 本件ドメイン名の要部である「KITAC」との文字列についてのことと解される。 権利または正当な利益については、その存在について登録者による主張が予定され ているところ(処理方針第4条c(ⅰ)乃至(ⅲ)参照)、登録者はその存在について 何ら実質的な主張を行わない。 したがって、本件登録者がドメイン名について権利または正当の利益を有している とは認められない。 (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること(処理方 針第4条a(ⅲ)) 申立人は、登録者は本件各ドメイン名を使用して、インターネット上のユーザーを オンラインカジノのオンラインロケーションに誘導するために使用していると主張 し、これに沿う証拠を提出する(甲第48、同51、同52、同54、同55号証)。 また、申立人は、パチンコ、スロットマシーン、パチスロ、ホール等を紹介するウ ェブサイト(例えば、株式会社パチンコビレッジ)において、申立人の本件パチスロ 機1乃至3がその商品ページのURLとともに紹介されているが、そのURLをクリック すると、リンクが貼られており、それぞれ登録者の本件ドメイン名1乃至3のサイト に飛ぶようになっていると主張し、これに沿う証拠を提出する(甲第50、53、56号 証)。 そして、本件パチスロ機1(パチスロ デッドマン・ワンダーランド)が2015年10 月に、本件パチスロ機2(パチスロ 輪るピングドラム)が2017年3月に、本件パチ スロ機3(パチスロ テイルズオブシンフォニア)が2017年6月にそれぞれ発売され (甲第2号証)、これらの各機種名がネット上で紹介される中で、これら機種名に関連 付けて、本件各ドメイン名が使用され、オンラインカジノのオンラインロケーション に誘導するために使用されていると認めることができる。さらに客観的に次のことが 認められる。すなわち、(a)申立人は、本件各ドメイン名を保有し、本件各パチスロ機 に関する特設サイトを開設し、宣伝広告に供し、使用していたこと、(b)その後本件各 ドメイン名を廃止したところ、登録者が本件各ドメイン名を登録し、オンラインカジ ノのオンラインロケーションへの誘導として使用されるようになったこと、(c)登録 者がオンラインカジノに関連付けて申立人の商標と類似する本件各ドメイン名を使 用していること、(d)申立人の製造するパチスロ機の近時の設置シェアは、東京・大阪 の主要14店舗において継続して1位であること(甲第42乃至46号証)。そうする と本件各ドメイン名を登録者が利用する合理的な理由はなく、オンラインカジノやパ チスロ機に関心を有する需要者層において申立人の商標等と需要者が誤認を惹き起 こす恐れがあるといえる。 かかる主張に対し、登録者は答弁を行っていない。 ところで、処理方針第4条bによれば、「(ⅳ)登録者が、商業上の利得を得る目的 で、そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーション、またはそれらに登 場する商品及びサービスの出所、スポンサーシップ、取引提携関係、推奨関係などに ついて誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユーザーを、その ウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、当該ドメイ ン名を使用しているとき」との事情がある場合には、当該ドメイン名の登録または使 用は、不正の目的であると認めなければならないと定めている。 本件においては、上記の客観的な使用実態の状況を総合考慮して、登録者が商業上 の利得を得る目的で、そのウェブサイトもしくは、その他のオンラインロケーション、 またはそれらに登場する商品及びサービスの出所などについて誤認混同を生ぜしめ ることを意図してインターネット上のユーザーを、そのウェブサイトまたはその他の オンラインロケーションに誘導するために、当該ドメイン名を使用していると推認で きる。登録者は、答弁書を提出せず、特段の反論をしていないことは既述のとおりで あり、また、一件記録を検討しても、不正の目的での登録又は使用を否定する例外的 な事情は認められない。 したがって、本件ドメイン名は登録者によって不正の目的で登録され、使用されて いると認められる。 (4)救済 申立人は、本件の各登録ドメイン名の登録移転を求めている。そして、本パネルは、 移転すべきものと判断した。しかし、本件においては、取消裁定に止めるべきとの考 えもあるかと思料する。しかし、取消裁定に止めず移転裁定が適切と判断する理由は 次のとおりである。念のために、この点について以下に付言する。 本件の各登録ドメイン名は、申立人と第三者との商品化権使用許諾契約の下で、作 品名の略称が組み合わされ、登録されていた「KITAC-DEADMAN.JP」、「KITAC-PENGUIND RUM.JP」及び「KITAC-TOS.JP」と同一である。そして、申立人は、前記契約満了によ り各ドメイン名の登録を廃止している。 本件事実関係においては、本裁定において登録ドメイン名「KITAC-DEADMAN.JP」、「K ITAC-PENGUINDRUM.JP」及び「KITAC-TOS.JP」を申立人に移転させるとすれば、「KITA C-DEADMAN.JP」「KITAC-PENGUINDRUM.JP」及び「KITAC-TOS.JP」の文字列を含む上記の 商品化権使用許諾契約上の取り扱いの内容が不明なままに、場合によっては契約上の 問題等を誘発する可能性も否定できないと考えられた。そのため、そのような事情が 申立人から主張されてうかがえる場合には、申立の一部認容の趣旨で、取消の限度で 申し立てを認めることも考えられなくはない(日本知的財産仲裁センターにおける裁 定においても移転裁定の申立てに対して取消裁定をした先例として、事件番号:JP20 17-0001 https://www.nic.ad.jp/ja/drp/list/2017/JP2017-0001.html、事件番号:J P2017-0005 https://www.nic.ad.jp/ja/drp/list/2017/JP2017-0005.htmlが存する。 ただし、本件とは事案を異にする)。 しかし、移転後に生じるかも知れない移転後の問題を、移転前に先取りして断定的 に判断して移転を否定することは、根拠に乏しい。すなわち、移転後の問題を想定し て移転請求の可否を決する根拠や基準は、処理方針・手続規則等には見い出し得ない。 したがって、移転裁定にあたり、移転後の紛争の可能性に基づいてその採否を決すべ きではなく、移転請求に対して、取消裁定を行うために、移転を否定する事由として は、余程の特別な事情がない限り妥当とは言えないと思料した。もちろん移転請求が 認められ、移転が実行されても、その後に正当な利害関係を有する第三者との間に別 途解決すべき問題が生じるか否かは別問題である。本件ドメイン紛争処理は、あくま で、申立人と登録者間において、主として処理方針4条aの定める3つの実体的要件 の該当性を中心に、申立人の求めた登録者のドメイン名登録の取消請求または当該ド メイン名登録の申立人への移転請求が認められるか否かを判断すれば足りると解する (処理方針4条iは、救済として、「申立人がパネルに対して求めることのできる救 済は、登録者のドメイン名登録の取消請求または当該ドメイン名登録の申立人への移 転請求に限られる。」と規定し、2つの請求に限定している。その救済がどのような場 合に選択されるのかは申立人の選択に委ねられている)。 また、移転請求の救済の申立てに対し取消裁定を行い、同裁定に即した措置が採ら れても、登録を取り消されたドメイン名については、1ヵ月間、再度の登録申請がで きないものの、その後再度登録申請が可能である(汎用JPドメイン名登録等に関す る規則29条1項(6)、同33条、同24条)。したがって取消裁定では、裁定後に 再び第三者に登録される可能性があり、紛争の解決にはつながらず、申立人が移転請 求の救済を選択したことを閑却することになる。そうであるならば、移転請求を申立 人がしているときに、取消裁定が許されることがあるとしても、特段の事情がない限 り、移転請求を認めれば足りると解する。本件では、このような特段の事情は認めら れず、却って処理方針第4条b(ⅳ)に該当するようなドメイン名の使用については、 移転請求の申立てに対し移転裁定を行うことが必要な解決につながると考える。 なお、登録ドメイン名の移転裁定の申立てについて、申立人への登録ドメイン名の 移転につき関係する第三者(本件では、株式会社KADOKAWA、キングレコード株式会社、 株式会社バンダイナムコエンターテイメント等)の同意が定かでない点について、移 転を同意の有無にかからしめるという処理方針・手続規則等の根拠はなく、同意書の 存在により移転の可否が必然的に決せられるわけでもない(もっとも当該第三者との 該当部分の契約内容を明らかにし、当該第三者の同意を予め得て、証拠として申立人 が同意書を提出しておくことは望ましい)。 6 結論 以上のとおり、本パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「KITAC- DEADMAN.JP」、「KITAC-PENGUINDRUM.JP」及び「KITAC-TOS.JP」が申立人の登録商標と混 同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名について権利又は正当な利益を有し ておらず、当該登録ドメイン名が不正の目的で使用されているものと判断する。 よって、処理方針第4条iに従って、ドメイン名「KITAC-DEADMAN.JP」、「KITAC-PENG UINDRUM.JP」及び「KITAC-TOS.JP」の各登録を申立人に移転するものとし、主文のとお り裁定する。 2021年7月1日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 単独パネリスト 三 山 峻 司 別記 手続の経緯 (1)申立書受領日 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2021年4月30 日に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。 (2)申立手数料受領日 センターは、2021年4月30日に申立人より申立手数料を受領した。 (3)ドメイン名及び登録者の確認 センターは、2021年4月30日にJPRSに登録情報を照会し、2021年4 月30日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者である ことを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及 び住所等を受領した。 (4)適式性 センターは、2021年5月10日に補正(申立書及び証拠説明書の修正)が必要 と判断してその旨を申立人に通知し、2021年5月10日に補正書類を受領し、2 021年5月10日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合していることを確認 した。 (5)手続開始日 センターは、2021年5月12日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子 的送信により、手続の開始を通知した。センターは、2021年5月12日に登録者 に対し郵送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に 対し、手続開始日(2021年5月12日)、答弁書提出期限(2021年6月9日) 並びに書面の受領及び提出のための手段について通知した。但し登録者の住所に送付 した通知は、郵便局での保管期間を経過したとして返送された。 (6)答弁書の提出 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2021年6月10 日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送 信により申立人及び登録者に送付した。 (7)パネルの指名及び裁定予定日の通知 申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、2 021年6月16日に弁護士 三山 峻司を単独パネリストとして指名し、一件書類 を電子的送信によりパネルに送付した。センターは、2021年6月16日に申立人、 登録者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリスト及び 裁定予定日(2021年7月6日)を通知した。パネルは、2021年6月17日に 公正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。 (8)パネルによる審理・裁定 パネルは、2021年7月1日に審理を終了し、裁定を行った。